口の悪い、彼は。
 



わたわたと仕事をこなしている間に時間はあっという間に過ぎてしまって、気付けば窓の向こうに見える外の景色は紺色に包まれていた。

紺色の中にはキラキラと街中のネオンが煌めいているのが見える。

そして、そのままオフィス内を見渡してみると誰もいない。

もうみんな帰ってしまったのだろうか。

……千尋も出張で疲れているだろうし、もう帰っちゃったのかな。

集中が切れてしまった私はふぅと息をつきながら、椅子に座ったまま背伸びをする。

ずっとパソコンに向かっていたからか背中がパキパキと鳴った。


「ふぅ」


目の前に置いていた資料をパラパラとめくり、あともう少し頑張ろう、と再びパソコンに向かい始めた時、オフィスのドアが開く音がしんとしている空間に響いた。


「!」


ビクッと身体を跳ねさせてドアの方を見ると、そこにはもう帰ったと思っていた千尋の姿があった。

一瞬だけ私の方に目を向け、すぐに自分のデスクに向かい始める。

もう誰もいないのに話し掛けてくれないんだな、と思ったけど、それ以上に気になったことがあった。

……何か疲れて見えるけど……気のせいかな?

でも長期出張だったし、注文書の量を考えても、かなり忙しく過ごしていたのかもしれない。

今日は今日で、朝は営業の人たちに囲まれっぱなしだったし、会議もあったようだし……。

しかも、この時間まで残っているのだ。

 
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