口の悪い、彼は。
心配になってしまって声を掛けたくなったけど、今この状況で声を掛けるのはかなり勇気がいるし、会社で慣れ慣れしくするのは千尋にとっても快く思えるものでもないはずだ。
このまま見守るしかないのかなと思ったその時、あるものの存在をはっと思い出した。
今日は忙しかったから、明日にでもタイミングを見計らって出そうと思っていたものだ。
私はカバンの中に潜ませておいたソレを手に取り、そっとデスクの上に置く。
……メールで用意しておくと一方的に約束した“あんみつ饅頭”。
昨日、比奈子さんとの約束場所に行く前に急いで買ってきておいた。
あまり多くても困るだろうと、6個入りのかわいい小箱のものにした。
帰る時にでも、まだ千尋が仕事していたら渡そうかな。
もし千尋の方が先に帰ってしまったら明日にしよう。
よし、と私はひとり小さく頷き、再び仕事に戻った。
オフィスの壁にかかっている時計が22時をさした頃、ようやく仕事の目途がついた私は資料を閉じ、パソコンの電源を落とした。
ちらりと目線を動かすとそこには千尋の姿がある。
千尋はこの時間になってもまだパソコンのキーボードをカタカタと打っていた。
さっき煙草を吸いに行っていたみたいだけど、10分もしないうちに戻ってきていたところを考えても、まだ仕事がたくさん残っているのかもしれない。
いつか腱鞘炎になるんじゃないだろうかというくらいの速打ちと仕事量に感心するばかりだ。
改めて思うまでもないけど、やっぱり千尋ってすごい人なんだよなぁ。
いつかのボーナスの時の営業成績を改めて見た時もダントツだったし。
あの注文の数を見る限り、次もダントツトップだろう。
本当に、尊敬する。
でも、無理して身体を壊すなんてことになったら困るし心配だ。
少しでも体と心を休めてほしい。