口の悪い、彼は。
「……高橋」
「はい……」
「今、部長、“小春”って」
「……言いました、かね?」
「高橋の下の名前って、“小春”だよな?」
「はい。生まれてこのかた、ずっとその名前です」
「……どういうこと?」
「……さぁ」
「さぁ、じゃねぇ!!!」
「……ゆ、夢、とか?」
「はぁ!?」
だって、ねぇ?
千尋が会社のみんなの前で「小春」って呼んでくれるなんて……きっと、夢にさえ出てこないくらいの奇跡なのだ。
「き、きっと、そうです。これは夢ですね。奇跡的な夢です。はい」
「いや、高橋」
「夢…………みたいなので、私、帰りますね!!みんなも疲れてると思うので、早く帰りましょう!では!お疲れさまでしたっ!」
「あっ、高橋っ!?待てっ!」
私は早口でそう言った後、バッグをさっと掴んでオフィスを飛び出した。
後ろからは私のことを呼ぶ声やざわめきが聞こえてきていたけど、私は振り向くことなく前に向かっていく。
本当に何が起こったのかなんてわからない。
状況なんて全く見えない。
……でもきっと、私が向かう場所には、私の求める姿があるはずだ。