口の悪い、彼は。
3
**
あれから丸2年の歳月を経て私の中に膨らんだのは、もっと部長の素の姿を知りたいという気持ちだった。
わからないこともたくさんあるけど、観察すればするほど、ツンツン言葉の裏に隠された意味を感じる気がして。
いつの間にか部長を観察対象ではなく、ただ部長のことを知りたいという気持ちだけで、目で追うようになっていた。
……つまり、現在進行形で大きく大きく膨らみ続けているのは、部長のことが好きだという気持ち。
真野部長の甘そうに見える男前な外見だけで憧れている人は多いみたいだけど、私は真野部長のすぐツンツンしてしまう素の部分や意外な一面も知っているんだと思えば、何だか優越感が湧いてしまったりもして。
部長は歳も結構上のはずだし、性格はツンツンだとは言えあれだけカッコ良ければ経験を積んでいるだろうから、きっと私と同じように部長のそういう意外な一面を知っている存在はたくさんいるんだろうけど……。
ああ見えて意外と遊んでたり、恋愛に関しては甘々だったりして……って、へこむようなことを考えるのはやめよう。
どうせ私には手の届かない存在なんだから、ただ、目に映る部長に対しての片想いを楽しめばいいのだ。
定時が過ぎた今でも携帯を片手に資料を見ながらあーだこーだと話している部長を私は横目でちらりと見て、はぁ、と小さく息をつく。
口調と聞こえてくる話の内容から察するに、地方の営業所の人と話しているようだ。
何だよもう。今日も変わらずスーツイケメン男子だなぁ。
見とれちゃうよ。
「あ。そういえば、結局、結婚してるのかな……」
「結婚?なに、高橋、結婚すんの?」
「えっ?あっ、喜多村さん。あ、今日の伝票ですね。ありがとうございます」
突然降ってきた喜多村さんの声と伝票を私は受け取る。
今日は直帰の人が多いから喜多村さんの伝票でラストだろう。
仕事は増えたけど喜ばしいことなんだよね、と思いながら、私は受け取った伝票をぴらぴらとめくり内容を確認する。