口の悪い、彼は。
 

エレベーターが1階につきエントランスに出て前を見た瞬間、そこには女性社員の視線を浴びているイケメンスーツ男子がいた。

ただそこにいるだけで、存在感のある男。

その人は私のことを認めると、真っ直ぐと見据えてくる。

私はその人に向かってゆっくりと近付き、見上げた。


「……いいんですか?」

「何が」

「大騒ぎですけど」

「いいんじゃねぇか?好きにさせておけば」

「……」


ねぇ、何で好きにさせておいてもいいの?

……それは期待してもいいってこと?

今だって、ここにだって人がたくさんいるのにこんな風に話してくれて、私のことを見てくれているなんて。

聞きたいことはたくさんあって千尋の瞳を見上げていたけど、その疑問は外に出ることのないまま、千尋は私からふいっと目線を外してしまった。


「ほら、帰るぞ」

「!」


千尋はぶっきらぼうにそう言って、私を置いてさっさと歩いていってしまう。

手を引いてくれるなんていう甘さはそこには存在しないし、明確な言葉を掛けてくれたわけでもないけど、私は千尋のこの10分間の言葉や行動だけで十分だった。

ドキドキと高鳴っていく鼓動を感じながら、私は千尋の後ろを追い掛けた。

 
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