口の悪い、彼は。
 



「……入っても、いいんですか?」

「別に入りたくねぇなら入らなくてもいいけど」

「!……意地悪」

「……はぁ。ほら、さっさと入れ。小春」

「……」


千尋はツンツンした言葉を吐き、呆れたようにため息をつくのに、私の名前を呼んでその扉を開けていてくれる。

やっぱり何だかんだ言いながらも優しくて、私を受け入れてくれるのだ。

……それを疑ってしまった私は大馬鹿者なのかもしれない。


3週間弱ぶりのその部屋は何も変わっていなかった。

部屋に入った瞬間、すっかり私に馴染んでしまった匂いがして、それに包まれた私はほっとした気持ちになる。

それと同時に湧いてくるのは、やっぱり千尋のそばに居たいという気持ちと、またこの部屋に入れてもらえたことが嬉しくて幸せで仕方ないという気持ちだった。

またここに戻ってきてもいいのかな……?


「何ぼーっとしてんだ。座れよ」

「あっ、うん」


ぼんやりと考えてしまっていた私を千尋が促してくれる。

3週間前まで完全に私の定位置となっていたソファーに、私はすとんと腰を下ろす。

右側の肘掛けには私が勝手に持ち込んだクッションもちゃんと置かれていて、捨てずにここに置いていてくれたんだなと感動して涙が出そうになってしまう。


「はぁ。やっと休める」

「あ、だね。お疲れさま」


そう言って千尋はネクタイをくいくいと緩めながら隣に座ってくる。

やっぱり疲れてたんだなと思いながら、千尋がどさっと座った振動にちらりと目線を向けると、Yシャツのボタンも緩められていて、そこから覗くセクシーな首もとが目に映って、私の心臓がドキンと音をたてた。

 
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