口の悪い、彼は。
こんなに小さなことなのに私をこんなにもドキドキさせる千尋はやっぱりズルいと思いながら、千尋の首もとから目線を上げると、バチっと千尋の目線とぶつかった。
「っ!」
「変な目で見んなよ」
「なっ!そ、そんな風に見てないよ」
「あっそ」
慌てる私とは違って千尋はいつものように冷静だ。
あまりにも千尋の雰囲気が3週間前までと同じ過ぎて、あの言い合いを忘れてしまいそうなほどだ。
「……」
「……」
私と千尋の間に佇む沈黙。
きっと、私が話し掛けないと千尋は自分からは話し出さない。
そんなところも全く変わっていなくて。
不思議と沈黙が重いとか苦しいとかはないけど……うやむやにするのは良くないし、やっぱりちゃんと話さなきゃいけない、と私はゆっくりと口を開く。
「……ね、千尋……」
「あ?」
「……怒ってないの?」
「何に対して」
「……えっと、この前の公園の……私の子どもみたいなヤキモチ、とか……」
「別に」
「へ?」
「確かに呆れはしたけど、怒る理由はねぇだろ」
「!そ、そうなの?でも、あんな言葉を言うくらいには……私のこと嫌になったんだよね……?」
「あんな言葉?……あぁ。別れるってやつか」
「!う、うん……」
もう二度と聞きたくない言葉だし、自分の口からも言いたくない言葉だ。
その言葉をさらりと言える千尋は平気なんだなと思うと悲しくなった。