口の悪い、彼は。
はぁ、と千尋が息をつき、口を開く。
その様子はいつものようにツンツンなものではない。
「前言ったよな?」
「……」
「……好きじゃなかったら、家になんて入れねぇし」
「……んっ!」
千尋の唇が私のそれにぶつかるように触れる。
「キスだってしない。こんなに長く一緒にいたりもしない」
「!」
「……一度しか言わねぇからちゃんと聞いとけよ」
「……」
「俺を突き動かすのはお前の笑顔だよ。どんなにイライラしたって疲れてたって、お前の笑顔で全部チャラだ。お前は俺の近くでアホみたいに笑って自信持ってればいいんだよ」
「……」
初めて聞く言葉に、その意味がしばらく理解できなくてポカンとしてしまっていたけど、じわじわと頭の中に吸収される千尋の言葉に含まれている意味に、私の目からは大粒の涙がボロボロと溢れ出してしまう。
知らなかった。
千尋がそんなことを思っていてくれていたなんて。
私ばっかりが千尋のことを好きだと思ってたけど、千尋もちゃんと私のことを想ってくれていたんだ。
嬉しすぎて、幸せすぎて、それを千尋に伝えたいのに、言葉になってくれない。
笑顔を見せたいのに、零れ落ちてくるのは涙ばかり。