口の悪い、彼は。
「あっ、ちょっ、と待って……っ」
「あ?」
「スーツ、汚れるから……顔洗ってくる」
「いい」
「よ、良くないよ。涙でぐちゃぐちゃで不細工だもん」
「いいっつってんだろ。つーか、3週間我慢してたんだ。もう待たない」
ぽふんと千尋の胸元に顔がうずまってしまった瞬間、近距離からそんな言葉が降ってきて、私は一瞬何を言われたのか理解できなかった。
……我慢、してた?って……?
「……なに、それ?」
「自信なんか、すぐに持たせてやる」
「!?」
「お前が望んだことだからな。逃げんなよ」
「うひぇっ!?」
はじめてこの部屋に入れてもらった時と同じようにお姫様抱っこをされて、私はつい変な声を出してしまう。
驚きのあまり、涙は完全に引っ込んでしまった。
落ちるのが怖くて千尋の首にしがみつくようにすると、千尋が冷たい目線を落としてきて、呆れたようなため息をついた。
「はぁ。ほんと、お前は色気ねぇな」
「ちょちょちょ!そういう問題じゃないでしょ!?千尋っ、おろしてっ!これ結構怖いんだよっ?」
「うるせぇ。黙れ。落とされてぇのか?」
「っ!」
低い声で言われて、千尋ならやりかねない、と私は口をつぐんだ。