口の悪い、彼は。
甘すぎるキスを受けながら何とか腕を踏ん張ってもがもがと千尋の胸の上でもがくけど、時間が経つごとにキスのせいでそのもがく力も抜けていってしまう。
しばらく経った後、ふと頭に乗っていた力が緩んだのを感じて、その隙に私は唇を離し、力が抜けてずっしりと重くなってしまった身体をゆっくりと起こした。
力があまり入らなくて、完全には身体は持ち上がってくれない。
千尋との距離はかなり近い。
「は……っ、も~千尋のバカっ」
「そのバカのことがお前は好きなんだろ?」
キュッと千尋の親指が私の濡れた唇を拭う。
上から千尋を見ることなんて滅多にないから、それだけでも私の心臓の鼓動は速度を増していく。
「~~っ、そうだよっ!悪い!?」
「別に。つーか、安心しろ。そのバカのことが好きなバカが、俺は好きなんだし」
「……」
ふと表情が緩んだ千尋から出てきた言葉の意味がすぐには掴めなくて、私は千尋のことをじっと見つめてしまう。
今、何て……。
「小春」
「は、はい……」
「……好きだ」
「……」
……今、何て?
……好き、って聞こえた。
千尋は私を吸い込んでしまいそうな瞳でぽかんとしてしまっている私のことを見つめながら、頬をツツと大きな手で撫でてくる。
「おい。聞いてんのか」
「~~っ、ちっ、千尋、い、今」
「何」
「いいい今……っ、だ、だっ、だからっ」
「はっ、慌てすぎだろ」
「だ、だって、ひゃ……っ!」
私の見える世界がくるりとひっくり返った瞬間、私の世界は再び千尋の世界でいっぱいになる。