口の悪い、彼は。
……話すと長くなるからすっ飛ばすけど、いろいろありながらも再会した日から8ヶ月が過ぎた頃、知夏と想いが通じた。
どうにもできないくらい知夏のことを好きになっていた俺は、知夏も俺のことを好きだと思っていてくれたことを知った瞬間、嬉しくて仕方なくて飛び跳ねそうになってしまった。
知夏と一緒に過ごす時間、知夏に触れる瞬間、知夏がはじめて見せてくれる表情、どんなに些細なことでも全てが嬉しくて幸せでたまらなくて。
付き合い始めてからも知夏への想いは膨らむ一方で、俺は自然と知夏との将来を考えるようになっていった。
そして、付き合い始めて2年が経ちふたりが30歳を迎える頃、俺は知夏にプロポーズをして、いい返事をもらえたんだ。
結婚と同時にできたのが、義妹だ。
何の偶然か、会社の後輩である高橋小春(たかはしこはる)が知夏の5歳下の妹で。
付き合い始めた時に知夏から俺と同じ会社に自分の妹がいると告げられて知ったんだけど、あまりの似てなさに驚いてしまった。
確かに名字が同じだとは思っていたけど、“高橋”という名字はありふれたものだし、ふたりの性格はまるで正反対で、まさかふたりが姉妹だなんて考えは出てこなかったから。
似ていないとは言っても、それは血が繋がっていないとかそういうものではなく、高橋がのんびりやの父親似で、知夏が几帳面な母親似という違いらしい。
もともと、素直でがんばり屋な高橋のことをかわいい後輩だと思っていたけど、知夏の妹だと知ればその気持ちは倍増……何百倍にも増した。
それはもちろん“家族愛”みたいなもので、俺がどんなにちょっかいを出してもあっさりあしらわれる辺り、高橋も同じように感じているようだった。
そんな義妹の高橋に彼氏がいることを、ある日ひょんなことから知ってしまい、俺は戸惑っていた。
……いや、戸惑うどころではなかった。
その相手が、俺たちの上司である真野(まの)部長だったから。
真野部長は男も憧れるほどの容姿端麗であるにも関わらず、その口の悪さはハンパない。
同僚がミスをすれば飛んでくる罵声、楽しいはずの飲み会の席ですらそれは変わらない。
ただ、その発される言葉にはひとつも間違っていることはなく、むしろ、部下のことや会社のこと、顧客のことを考えているからこそのものだと、一緒に過ごすうちに知った。
それは他の同僚も同じで、部長のことを嫌うようなヤツはひとりもいなくて、むしろ信頼し、尊敬している人間ばかりだ。
……まぁ、余計な火の粉が飛んでくるのは遠慮したいからと、積極的に部長に近づくような人間はいないけど。
それとは反対に、高橋は明るくていつも笑顔を絶やさない。
営業部のマドンナとはお世辞にも言えないけど、みんなに可愛がられているマスコット的存在。
のんびりおっとりしている性格、そして少し抜けたところがあって、部長に怒鳴られているところを何度も見てきた。
だから、そのふたりがまさか付き合っているだなんて、予想すらしていなかったんだ。
○。