口の悪い、彼は。
 
**


ある休日のこと。


「……な、んで」


俺は玄関先で完全に固まっていた。

俺の目に映るのは……。


「こんにちは!喜多村さん!お姉ちゃん!おじゃましにきました!」


にこにこと笑みを浮かべる知夏の妹、高橋。

こっちはまだいい。

今日、うちに来ることが決まっていたのだから。

でも。


「小春、いらっしゃい。真野さんも。お久しぶりです」


知夏は穏やかな表情を浮かべ、驚く様子もなく、ふたりに向かって挨拶をする。

……そう。

高橋の隣に立っているのは、紛れもなく、俺と高橋の上司である真野部長だ。

一体全体、何が起こっているんだ……?


「……お久しぶりです。突然すみません。私は遠慮させてもらおうと思ったのですが……妹さんに押しきられまして」

「ひゃっ!?ちょっと、千尋!せっかくおだんご作ったのに、崩れるじゃん!」


部長が高橋の頭にぽすんと手を乗せると、高橋はそれが当たり前かのように吠えた。

……ち、ちひろ、って呼んでんのか……?

あの部長のことを……?

いや、もしかしたら、俺の目の前にいるのは部長に似た別人なんじゃないか?

そうであることを一瞬期待したけど、次の瞬間俺の目に映ったのは、部長が会社でもよく見せる眉間に皺を寄せた呆れ顔だった。

 
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