口の悪い、彼は。
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ある休日のこと。
「……な、んで」
俺は玄関先で完全に固まっていた。
俺の目に映るのは……。
「こんにちは!喜多村さん!お姉ちゃん!おじゃましにきました!」
にこにこと笑みを浮かべる知夏の妹、高橋。
こっちはまだいい。
今日、うちに来ることが決まっていたのだから。
でも。
「小春、いらっしゃい。真野さんも。お久しぶりです」
知夏は穏やかな表情を浮かべ、驚く様子もなく、ふたりに向かって挨拶をする。
……そう。
高橋の隣に立っているのは、紛れもなく、俺と高橋の上司である真野部長だ。
一体全体、何が起こっているんだ……?
「……お久しぶりです。突然すみません。私は遠慮させてもらおうと思ったのですが……妹さんに押しきられまして」
「ひゃっ!?ちょっと、千尋!せっかくおだんご作ったのに、崩れるじゃん!」
部長が高橋の頭にぽすんと手を乗せると、高橋はそれが当たり前かのように吠えた。
……ち、ちひろ、って呼んでんのか……?
あの部長のことを……?
いや、もしかしたら、俺の目の前にいるのは部長に似た別人なんじゃないか?
そうであることを一瞬期待したけど、次の瞬間俺の目に映ったのは、部長が会社でもよく見せる眉間に皺を寄せた呆れ顔だった。