口の悪い、彼は。
 

お姉ちゃんはというと、真面目一直線の人でほとんどポーカーフェイスを崩さないんだけど、喜多村さんが関わるとかわいい女子の顔を見せるらしい。

……私には“お姉ちゃんの顔”しか見せてくれたことはないけど。

ふにゃふにゃしている私とは正反対で、容姿端麗なだけではなくバリバリ仕事もこなすしっかりものすぎるお姉ちゃんなのだ。

本当に姉妹なのかを疑ってしまうほどの違いがそこにはあるけど、それは単にほわっとしている父親似かしゃきしゃきしている母親似かの違いがあるだけ。

そんなお姉ちゃんのことを私は昔からずっと憧れている。

そんな理由もあって、喜多村さんは私のことを妹のようにかわいがってくれるし、こうやって構ってくる。

喜多村さんに構われすぎると周りの視線が怖いと喜多村さんに言ったことがあるけど、そんなことは喜多村さんにとってはどうでもいいことらしく、“妹”を構うことはやめてくれない。

むしろ「何かあったらすぐに言え!」と本物のお兄ちゃんみたいな台詞を言われてしまった。


「高橋」

「はい?」

「いい男ができたら、俺にすぐ紹介しろよ?見極めてやるからな」

「……わかりました」

「うん。いい子」


喜多村さんの手が私の頭に伸びてきて、くしゃりと撫でる。

撫でられるのは嫌いじゃなくてそのまま撫でられながらふと目線を上げると、電話が終わったらしい真野部長と目が合った。

ドキン!と心臓が跳ねる。

部長は目を少し細めて私のことを見ていて、もしかしたら何か仕事でミスをしてしまったのだろうかと思ったけど、いつものように罵声は飛んでこない。

完全な勘違いだとはわかっているけど、私と部長との間に周りとは何か違う空気感みたいなものがある気がして、私は部長から目を離すことができなかった。

見つめ合う。

……ダメ。

ドキドキが止まらない。

部長は今、何を考えてるの?

何でそんな目で見るの?

 
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