口の悪い、彼は。
「……はぁ。そのせいで遅刻したんだろうが。お前は」
「うっ、で、でも千尋だって悪いんだから!朝からお説教したり……、と、とにかくやめてよ!」
……しかも、タメ口。
おいおいおい。
頬を膨らませてぶーぶー言う高橋と、全く動じた様子もなく「黙れ」と言ってあしらう部長。
驚きのバロメーターが完全に振り切れてしまった俺が言い合うふたりのことを呆然と眺めていると、知夏が口を開いた。
「ほら、小春」
「っ!」
「妹がご無理を言ったみたいで、すみません。立ち話もなんですから、ふたりとも上がってください」
「はーい!おじゃましまーす!あれぇ?こんな置物あったっけ!?かわいい!お姉ちゃんが選んだんだよね!?」
「やっぱり小春も好みだった?そうかなって思ってたの」
「すっごい好み~!」
高橋がうちに来るのは3度目ということもあって、だいぶ慣れた様子で上がり込み、すぐさま知夏の腕に絡み付く。
相変わらず仲のいい姉妹だ。
……でも。
「はぁ、まったく。喜多村。悪いな」
「!い、いえ」
スーツ姿ではない部長はいつもよりも若く見えるけど、その存在感とオーラはいつもと同じだ。
まるで家庭訪問されているみたいで緊張してしまう。
「おじゃまします」
「あ、ど、どうぞ」
礼儀正しくそう言って靴を脱いだ部長は、はぁと息をつきながら、部長の靴と高橋の靴を綺麗に揃えた。