口の悪い、彼は。
 



ソファに座っている俺と部長の周りを沈黙が包み込む。

少し離れたところではラグマットに座り込んだ知夏と高橋が仲良くきゃっきゃとインテリア雑誌を覗き込みながらはしゃいでいる。

何か話した方がいいよなと、ちらっと横にいる部長のことを見ると、音を立ててはいないけどソファの肘掛けをトントンと指で叩きながらある方向を眺めていた。

そこにあるのは家具を揃える時に俺がチョイスした壁時計だ。


「あ、あの時計いいでしょう?」

「……あぁ。どこのやつだ?」

「ToKのやつで……、っ!」


しまった!と思った。

時計メーカーに勤めているというのに、愛用している時計が自分のところの製品ではなかったから。

やべぇ……怒られるかも……!

言葉に詰まってしまった俺に気付いたらしい部長の表情がほんの少し変わる。

でもそれは仕事中に見せるツンツンモードの部長の表情とは何か違う気がした。


「別に自分のところの製品を使おうと使うまいと、個人の自由だ。とやかく言うつもりはない。それに喜多村は誰よりも時計に詳しいし、興味のある時計もたくさんあるだろう」

「!……はい。その通りです」

「じゃあ堂々としてろ」

「はい、ありがとうございます!」


怒られなかったことに俺はほっと胸を撫で下ろす。

部長はわかってくれているんだと気付けば、自分の中にある想いが口からするりと出てきた。


「……確かに理想とする時計は世の中に溢れてるんですよね。うちの製品もいいものだと思いますけど、正直……まだまだだし、もっといい製品開発ができると思うんです。若い会社だからこその勢いもいいですけど、貫禄と言うか……重さとか存在感を与えるような製品もやっぱり必要だと思うので。そういうものがないと、この先残っていけませんから」


仲のいい同僚にすら言ったことのなかった、初めて口にする想いだった。

理想が高いと笑われようと、偉そうなことを言うなと指摘されようと、これが今の俺の中にある想い。

だからこそ、俺は企画の仕事も積極的に勤めたいと思うんだ。

もっといい時計、愛される時計を世の中に出すために。

 
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