口の悪い、彼は。
「そうだな。そういう理想の時計をお前が作ればいい」
「!は、はい!」
部長がふと表情を緩めたのを感じて、俺の心臓がドキッと跳ねる。
会社で部長と話すことはよくあるとは言え、こんな風に時計論に関して話をする機会は滅多にない。
しかも、部長からは会社で見せるようなピリピリした雰囲気は全く感じられなかった。
部長って、いつもツンツンしてるわけじゃねぇんだな……。
意外な素顔があるのかもしれない。
もしかして高橋には見せてんのか……?
少し拍子抜けして部長を見ていると。
「千尋っ」
「!」
「あ?何だ。騒々しい」
突然飛んできた高橋の声に、部長は眉をひそめる。
返す言葉は会社にいる時と同じようにツンツンしたものだ。
「煙草は外で!だからね!今吸いたいんでしょ!?」
「はぁ。いちいちうるせぇな。つーか、こっち見んな」
「こんなに素敵なおうちをヤニで汚されたくないもん!」
「……お前の家じゃねぇだろうが。ったく」
「あっ、ひとりで煙草吸うのが寂しいなら付き合ってあげよっか!?」
「いらねぇ」
「即答するなんて酷い!」という高橋の言葉を完全に無視した部長は、俺に目線を向けた。
「!」
「喜多村」
「え?」
「お前が付き合え。ベランダ、いいか?」
「あ、はい……」
俺の頷きにふぅと息をついた部長は、ボソッと俺にだけ聞こえる声で「悪いな」と言った。