口の悪い、彼は。
俺は部長と一緒に、ベランダに出た。
てっきり煙草を吸いに出てきたと思ったのに、部長は煙草を吸う様子もなく、ただ外の緑を目に映している。
もしかして遠慮しているのだろうか?という疑問が俺の頭の中を回り、窺うようにして俺は口を開いた。
「あの、部長」
「何だ」
「煙草、吸わないんですか?吸っても構いませんけど」
「いい」
「そう、ですか?」
「あぁ」
「……部長、以前に比べて煙草の量減りましたよね。この前の営業部の飲み会でもそんなに吸ってなかったみたいですし」
「ぴーちくぱーちく言ってくるヤツがいるからな」
「!なるほど……」
……驚いた。
まさか、あの部長が高橋の言葉で煙草を減らしたなんて。
部長に意見したり習慣を変えることができる人間なんて、そうそういないだろうと思っていたのに。
「高橋ってすげぇ女なんだな……」
「……何だ、いきなり」
「!あっ、いや、何でも」
「ないです!」と俺はビシッと背筋を伸ばす。
……やっべー!口に出てた!
心の中で言ったつもりが表に出ていたらしい。
休日だとは言え、ここにいるのは正真正銘、真野部長だ。
気を引き閉めろ!と俺はブンブンと頭を横に振った。
友達との恋愛話なら簡単に言えることも部長相手だとそうもいかない。
下手なことを言って仕事に支障が出ても困るし、何よりも高橋と部長の関係にヒビが入るなんてことになったら、高橋に顔を向けられなくなる。
きっと表情を引き締めて部長のことを見ると、バチっと目が合った。