口の悪い、彼は。
「!」
「……帰るか」
「え?」
「俺がいるとお前も息が詰まるだろ。もともと来るつもりもなかったし、俺をここに連れてきたことであいつも満足してるだろ。休みはゆっくり休め。あいつがいるとうるさいだろうけどな」
「……」
「じゃあな」
部長は踵を返し、ベランダのガラス張りの扉の取っ手に手をかける。
……それを俺は無意識に引き留めていた。
「あのっ、部長!」
「あ?」
俺の呼び掛けに部長は眉をひそめて振り返る。
それと同時に俺ははっと我に返った。
……っていうか、何で俺、部長のこと引き留めてんだよ!?
面と向かって話すことなんて……。
そう思ったけど、ずっと考えていた疑問があったことを思い出す。
直接聞く機会がくるとは想像もしていなかったけど、どうしても確かめたかったことだ。
聞くのは勇気がいるけど……こんな機会、次はいつ訪れるかわからない。
今しかない。
ふぅ、と小さく呼吸をして、口を開く。
「部長って、高橋と本当に付き合ってるんですよね?」
「……それがどうした」
「いや……高橋からも“部長と付き合ってる”とは聞きましたけど……会社ではそういう素振りは全く見られないし、部長は特に変わらないので……。だから、まだ信じられないというか」
高橋と部長はそこそこ歳が離れているはずだし……何よりも、俺から見てもかなりオトナの男の部長があの無邪気な高橋と、だなんて、やっぱり信じられない。
“彼女”という存在なのに特別優しくしているようには見えないし、高橋が熱を上げているだけで部長の方はもしかしたら遊びとか暇潰しなんじゃないか……と思ってしまうのも、仕方ないと思う。
万が一そうであれば、ツラい思いをするのは高橋だ。
それだけは絶対に避けたい。
高橋は義理だと言っても、俺にとっても大事な妹なんだから。