口の悪い、彼は。
 



「はーあ。敵わねぇなぁ~」

「……どうしたの?」


ソファーの背に体重をかけて背伸びをしている俺の隣に、知夏が窺うようにして座ってきた。

ソファーのすぐ近くにあるローテーブルには、知夏が入れてくれたコーヒーが入ったカップが置かれていて、白い湯気が上がっている。

俺はひょいっと身体を戻し、知夏に目線を向ける。


「いや、俺さ、高橋に男ができたら、兄貴としてガツン!と言ってやろうと思ってたんだよ。妹を泣かせるなよ、大事にしろよ、って」

「……それで?どうしたの?」

「……少し探って軽く言ってみたけど……俺が望んでたことはすでにされてた。高橋、すっげぇ愛されてるよ」

「うん、そっか」

「その時の俺の言い方が悪くて部長を怒らせたかなとも思ったんだけど」

「もしかして、小春が“別に気に障ったわけじゃないから安心しろ”って真野さんから伝言されてたのって、そのこと?」

「うん、たぶん。部長のそういうさらっとフォローしてくるところも敵わねぇんだ」

「真野さんって、すごく素敵な人だよね」

「……。」


……素敵な、人?


「……知夏」

「なに?」


嫌な予感が頭に浮かんでしまって知夏の名前を呼ぶと、知夏はきょとんとした表情を俺に向けた。


「ま、まさか……部長に特別な感情とか抱いてないよな!?」

「……何を言ってるの?」

「今、部長のこと素敵って言っただろ!?俺は知夏と絶対別れねぇからな!もしそうなりそうだったら、高橋と一緒に断固反対運動するから!」


いくら相手が部長だからって、俺は知夏を手放すつもりはこれっぽっちもない!

絶対離さねぇ!

 
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