口の悪い、彼は。
……一方。
オフィスに残されたふたりは。
「……どうしたんだろう、喜多村さん……。あんなにぼんやりしちゃってるの、珍しい……」
「……ったく、あいつは。余計なことでも考えてるんだろ。視線がうるせぇんだよ」
「余計なことって何?視線って?千尋、何か知ってるの?」
「……さぁな」
「えっ?知ってるなら教えてよ!あっ、もしかしてこの前の“気に障ってない”がどうとかって話してたことと関係あるの!?ベランダで喜多村さんと何話してたのかそろそろ教えてよー!喜多村さんも“仕事の話だよ”の一点張りで、全然口割ってくれないんだもん!」
「うるせぇ。つーか、お前も仕事しろ」
「えー!?気になって仕事になんない!」
「お前もここから追い出されてぇのか?」
「うっ……!いえ。仕事、します」
「さっさと終わらせろよ。はぁ。」
オフィス内で珍しくそんな会話が繰り広げられていたことは、俺には知りようもなかった。
「はぁ……。部長が弟かぁ……」
俺は屋上のベンチに座り前屈みになって頬杖をつき、まだ決まってもいないようなことをひとりごちた。
「はぁ。あ、そういえば、ふたりって同じマンションに住んでるって……もしかして、もうすでに同棲とかしてたり……!」
新たな心配の種が生まれてきて、俺は頭をガバッとかかえた。
かわいい義妹に対する心配といろんな心構えは、これからも絶えず増えていく一方のようだ。
Fin.