口の悪い、彼は。
「ねぇ、行こうよ~」
「行かねえっつってんだろうが。写真で散々見せられてる」
「二次元と三次元の違いは大きいんだよ!?」
「同じだろ」
「違うもん!晴日ちゃんのかわいさを千尋にも見てもらいたいのに!喜多村さんだってデレデレでおもしろいんだよ~」
「はぁ。ほんとうるせぇな」
このやり取りを1週間以上、そして今日も最後の足掻きとばかりに朝からずっと続けているせいか、千尋は完全に呆れ返ってしまっている。
実は晴日ちゃんが生まれてすぐの頃や、何度か会いに行く時も私はめげずに同じことをしていて、その時は結局千尋を連れていくことはできなかった。
だから、今回こそは!と頑張っているんだ。
どんなに断られようと、私は諦めないんだから!と「ねぇ、行こうよ~行こ行こ~」と千尋の服を引っ張っていると、突然千尋の手が目の前に伸びてきて、私の頬を両側からむにっと掴んだ。
「むっ!ひょっ、ひひほっ!?はひふんほ!?(むっ!ちょっ、千尋っ!?何すんの!?)」
私の口はアヒルみたいに尖っていて、さぞかし変な顔になっているだろう。
その変顔をじっと見てくる千尋。
さすがに、好きな人に変顔を見られ続けるのは宜しくない!と、私は「はなひへひょ!(離してよ!)」と千尋の腕を掴んで動かそうとするけど、びくともしない。
むにむにと私の頬の肉を掴みながら、千尋はそれはそれはめんどくさそうに、大きなため息をついた。
「……ったく。お前の頼みごとは今回限りだからな。もう騒ぐなよ」
「!うほ!?いっへふへふほ!?やっはぁ!(嘘!?行ってくれるの!?やったぁ!)」
やっと千尋が折れてくれた!と私は喜ぶけど、顔を掴まれているせいで、その感情は表に出せない。
口の端を上げたい気持ちでいっぱいになりながら、むぅとされるがまま唇を尖らせて千尋のことを見ていると、目を細めた千尋が残念そうに口を開いた。
「……不細工だな」
「!!ひほひっ!(酷いっ!)」
……千尋と付き合い始めてから早3年。
私たちの関係は相変わらずだった。