口の悪い、彼は。
 

「ぶ、部長!」

「あ?んだよ、うるせぇな。休憩してんだから邪魔すんな」


紫煙を吐き出しながら細められた目で睨まれてしまったけど、目をそらしたことで怒っているわけではなさそうで、私は心底ほっとした。


「す、すみません。あ、あのっ、ゴキブリですけど退治できましたから!もう、ヤツはいません。仲間がいない限りは」

「……あっそ」

「はい!」

「……仲間は……いや。何でもねぇ」

「?」


部長は目線を斜め上に向け、煙草を吸って煙を吐き出す。

その表情はいつもと同じで何の感情も見えないものだったけど、私は部長の放ったある単語が気になってしまった。

今、「仲間」って言ったよね?

それって……。


「あの」

「あ?」

「もしかして……、部長ってゴキブリが苦手なんですか?」

「…………んなわけねぇだろ。ガキじゃあるまいし」


ちらっと一瞬だけ私に目線が向いたけどすぐに離れ、ハァと呆れたようにため息をつかれた。

ま、待って。

これ、図星なんじゃ……!

ポーカーフェイスで考えていることがあまりよく読めないお姉ちゃんがいるおかげで、はずれることはあるとは言え、私は昔から人の表情を読むことがそこそこ得意な方なのだ。

しかも、言葉に妙な間もあったし。

部長の今の感じは確かに……図星だという様子のような気がする。

だから、私にヤツの退治をさせたのかもしれないと考えれば、納得もいく。

 
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