口の悪い、彼は。
ゴキブリが苦手だなんて意外過ぎて、また部長の意外な一面を知ることができたなと嬉しくなってしまう。
このネタをきっかけに部長と仕事以外のおしゃべりができるかもしれないと、私はつい調子に乗ってしまった。
「じゃあ、今の間は何ですかっ?図星ってことですよね!?やっぱり部長はゴキ」
「……おい。高橋」
「ひっ!?」
ものすごくドスのきいた低音の声を出されて、私はビクッと肩をすくめてしまう。
このドスのきいた声と突き刺さるような鋭い視線には何年経っても慣れないし、ある意味、ゴキブリなんかよりも何倍も恐ろしい。
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ。調子に乗ってねぇで早く仕事に戻れ。また残業になっても知らねぇぞ」
「うっ……」
核心をつかれてしまった私はそれ以上何も言えなくなってしまう。
仕事のことを持ち出すなんて、ズルい。
でもそれはきっと、図星だから話を終わらせようとしているだけのこと。
そう思えば、部長も私と同じように苦手なものがある手の届く普通の人なんだなと親近感が湧いた。
他にも苦手なものはあるのかな?
いや、それよりも好きなものとかそういうことの方が知りたい。
とは思っても、これ以上何かを言うともっと睨まれそうだし、もっとたくさん部長と話してみたいけど、ここは大人しく仕事に戻った方が良さそうだ。
私は仕方なく部長を突っつくのを諦めた。