口の悪い、彼は。
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私はサンプル品のことが気になってしまって、仕事が終わっているというのに帰ることができずにいた。
自分から企画部に行けばいいのかもしれないけど、部長からあんな風に突き放されてしまったこともあってその勇気が出ず、私はその場で待つことしかできなかったのだ。
「はぁ~。お疲れー。疲れたー」
「!お疲れ様です」
いつものようにゆるーく挨拶をしてオフィスに入ってきたのは喜多村さんで、私はその声にびくっと身体を震わせて挨拶を返した。
喜多村さんの疲れの混じった笑顔が私に向けられ、私も何とか笑顔を向ける。
「高橋まだいたんだな。あんまり頑張りすぎんなよー。あ、今日の伝票持ってくから、ちょっと待ってな」
「あ、はい。ありがとうございます」
喜多村さんは荷物を自分のデスクに置いて、ビジネスバッグの中を探りながら私に声を掛けてくる。
「ん?どうかしたか?何か、元気なくない?」
「!いえ……そんなこと、ないですよー」
ちらっと私の方を見た喜多村さんの表情が心配そうなものに変わって、私は慌ててえへらと笑顔を作って目線をそらす。
いけない。つい暗くなってしまうけど、いつも通りに振舞わなきゃ。
しっかり営業の仕事を果たしてきて疲れて戻ってきた喜多村さんに、私の不注意でしてしまったミスに対して、余計な心配なんてさせるわけにはいかない。
喜多村さんは特に気に掛けてくれている先輩だし自分のミスを伝えておくべきなのかもしれないけど、今の私にはそれはできそうになかった。
声を出してしまえば最後。絶対に泣いてしまう。
落ち着いてから、ちゃんと話した方がいい。