口の悪い、彼は。
 

「おい。何だその顔。お前、妙なこと考えてねぇか?」

「……っ」

「安心しろ。サンプルが壊れていたのは、お前のせいじゃない」

「……え?」


サンプルが壊れていたのは私のせいじゃない……?

それってどういうこと?


「落としてもないのに壊れるのはおかしいと思ったんだ。もし高橋がこけた時にサンプルが壊れたとしても、それは商品の欠陥だろうと。少し衝撃を与えたくらいで壊れる商品なんて、うちの会社から出たら困るからな」

「……!」

「企画部に確かめに行ったら、そっちにあった未開封のままのサンプル品も壊れていたから、うちの人間に確認した後、工場と配達業者にも確認を取った」

「えっ!?それでっ?」

「原因は配達業者だった。なかなか連絡が取れなくて時間がかかったけど、さっき連絡が取れて確認したんだ。配達中に荷台から落ちる音がしたらしいけど、大丈夫だろうと、そのまま持ってきて何も言わずに帰ったらしい。そんなことは大問題だし、対応は考えることになったけどな。だから、壊したのはお前じゃない」

「!ほ、本当ですか……!?本当にっ?」


私が壊したんじゃなかったの!?


「何度も言わせるな。お前のせいじゃない」

「~~っ、良かったぁぁ~」


安心した私は手で顔を覆ってしまう。

力が抜けて座り込みそうになるけど、さすがにそれはできなくて、必死に身体に力を入れた。

サンプル品が壊れていたことは問題だとは思うし、きっとそのことで揉めていて部長は戻ってくるのが遅くなったんだと思う。

でもそれ以上に安心した気持ちが大きかった。

私のミスではなかったんだから。

 
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