口の悪い、彼は。
「高橋?どうかした?」
「あっ、いえ!何か……本当に驚いちゃいました」
「まぁ、そりゃそうだろ!俺だって信号が青に変わってんのに、部長の姿に釘付けで発車すんの忘れて、後ろの車にクラクション鳴らされて慌てて発車したくらいビックリしたしな」
……あの部長にそこまでさせるってことは、もしかしたらその女の人は……。
「部長って……結婚してるんですかね……」
「さぁ?そういう話は聞いたことねぇし、指輪はめてるところも見たことはねぇな。俺が入ってくる前に結婚してるとかならわかんねぇけど。もし結婚してるんなら、今でも街中で腕を組んでデートするくらい超ラブラブってことか?……やべぇ。ああいうこととか、こういうこととか、想像しただけでやべぇ!」
「……喜多村さん。変なこと、考えないでくださいよ」
「んだよー。そういう高橋こそ、考えたんだろ?」
「!わっ、私は別に!」
……部長と壮絶綺麗な女の人が一緒にいる姿を想像するだけで胸が痛いのに……いちゃいちゃしてる姿なんて想像できるわけないじゃない。
想像し始めた時点で心が壊れちゃいそうだ。
と言っても、それ以上に、私と部長がそういう風にしている光景の方が、どんなに頑張っても想像することすらできない。
……結局、そんなものなのだ。
私と部長の距離は遠すぎる。
ただの上司と部下という関係しかないのだから。
これ以上部長の話を続けるのは辛い、ともやもやする思考と泣きそうな気持ちを吹き飛ばすように、私は口を開く。
「……それよりも喜多村さん!私、時計の企画の方が気になります!」
喜多村さんにこれから走り出す企画に関する話題を出して、私は話をがらりと変えた。