口の悪い、彼は。
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失恋をした時に仕事に打ち込むようになる理由が今ならわかる。
……ただ私の場合、問題は仕事に集中していても、完全に失恋したことを忘れきれないことだけだ。
だって、どんなに忘れようとしても、失恋した相手がすぐそこにいるのだから。
社内恋愛は毎日好きな人に会えるし、カッコいい仕事姿も見れるから楽しいものだと思っていたけど、壊れてしまった時のことを考えるとすごく辛い恋愛方法なのかもしれない。
喜多村さんに部長の恋愛事情を聞いてから数日は、部長はあちこちに出張に行っていて会うことはなかったけど、あの場面を目撃した営業さんがもう一人いて、部長がいない間、営業一課のオフィスでは部長が女の人と笑顔で一緒にいたという話題で持ちきりだった。
私も最初は流されるままみんなと一緒になって笑いながら話を聞いていたものの、エスカレートしていく営業さんたちの妄想話を聞くのがだんだん辛くなってしまって、最後の方は何かと理由をつけてオフィスを飛び出してしまっていた。
ようやく週末となった今日、部長は本社に戻ってきていて、出張のまとめ作業や部長職の資料作りなどの社内業務があるらしく、午前中からずっと私とふたり、オフィスにいた。
数時間前には通常業務が終わり、夕方過ぎからちらちらと戻ってきていた営業の人たちもすっかり退社してしまい、再びオフィス内には私と部長のふたりだけになってしまった。
カタカタとパソコンを打つ音がオフィス内に響く。
言わずもがな、そのタイピング速度は部長の方が速い。
とは言っても、私の今日の分の打ち込み作業はあと30分もあれば終わりそうだ。
以前なら、部長ともう少し一緒の空間に居たいからという理由で、前倒しで資料作りや雑用作業をしてから帰ろうかななんてわざと残っていたこともあったけど、今は部長とふたりで残るという状況は辛いだけだ。
完全な片想いをしていて失恋をしたくらいで辛いなんて思ってしまう私には、社内恋愛なんてする資格はないのかもしれない。
あともう少し頑張ったらいつものように笑顔で部長に挨拶をして帰ろう、と気合いを入れた時、開くはずのないオフィスの扉がガチャっと開いた。