口の悪い、彼は。
「あれー?真野、まだ残ってんの?華の週末なのにー」
「!」
扉の隙間からひょこっと姿を現したのは我が社のトップ、黒崎社長だ。
噂では社長は40歳前半だという話だけど、いつ見てもその容姿は若々しくて、とても40歳を過ぎているようには見えない。
部長は社長にちらりと目線を向けた後、すぐにパソコンに向き直り、高速タイピングを再開して低い声を放つ。
「……何しにきた。仕事の邪魔だ」
「何だよー冷てぇなぁ~。社長さまに向かって!」
「うるせぇ。さっさと失せろ」
「やだーやだー。たまには相手しろよー。真野、最近は仕事仕事で、僕の相手全然してくれないじゃんかー。僕、超寂しい想いしてるんだよ!?」
「こっちは会社のために仕事してんだ。それをわきまえろ」
「いいよー。来週すればいいじゃん!残業代はちゃんとつけるからさぁ」
「そういう問題じゃねぇ」
その声色だけで怒っていることが明らかな部長に向かって、社長はぶうぶうと言う。
あのツンツン部長に向かって言い返す社長に対してさすがだと思う反面、それ以上にその言葉遣いに私は驚いてしまって、ポカンと見てしまっていた。
たまに社長がこの営業部のオフィスに現れることがあるとは言え、いつもその威厳はそこそこ保っているのだ。
なのに、今私の目に映る社長は……まるで、子どものようだった。
っていうか……部長の恋人、のような……。
何だか見てはいけないものを見てしまった気分になった私はタイピングを止め、身を潜めるように身体を縮こまらせた。