口の悪い、彼は。
ど、どうしよう……。
私、ここにいてもいいのかな?
密会シーンを見てる感じがして、すごく気まずいんだけど……。
そっとオフィスから出て行きたいけど、廊下に出るための扉は社長の真後ろだし。
どう頑張って抜き足差し足をしたとしても、透明人間にでもならない限りは確実に私の存在はバレてしまう。
……それか、机の下に隠れてみる?
いやでも、それだと部長に見つかった時に何を言われるか考えるだけで、恐ろしい。
もやもやと考えた結果、私はこの場で身を小さくしてじっとしていようと決意する。
「あ、そうだ。みっちゃんとの取引、うまくいったみたいだねぇ~。みっちゃん、“あんたのところとは絶対に取引なんかしない”って言い張ってたのに、どんな手使ったの」
……みっちゃん?って誰だろう……?
取引ってことは顧客?
「……お前のわがままのせいで、しなくていいことまでさせられたんだ。もうしねぇからな」
「あー、むふふな手を使っちゃったわけね~」
「アホか、お前は」
「みっちゃんなら真野が落とすのが手っ取り早いと思ったんだよな。実際そうだったし、僕の見る目は確かだったね。それに、みっちゃんは真野にとっても大切な女だもんなー」
「何だよそれ。意味わかんねぇし」
……大切な女?
それって……彼女ってこと?
その時、喜多村さんが話していた、部長と一緒にいたという女の人が、きっと“みっちゃん”なんだと気付いた。
部長は呆れたような声色で話しているとは言え、否定をしていないということは社長が言っていることは真実だということだ。
まさかこんなところで止めを刺されるなんて思わなくて、胸がきゅうと締め付けられて泣きそうになってしまう。
やだ、こんな会話聞きたくなかった。