口の悪い、彼は。
 

「みっちゃん相変わらず綺麗だった?」

「……聞かなくてもわかるだろ。あいつのことは」

「まぁね~」

「つーか、黒崎。いい加減黙れ。そこ見てみろ」

「え?あれー?真野以外にも残ってる子いたんだねー。お疲れ様!えっとー、何さんだっけ?」

「!!?」


突然、話の矛先が自分に向いて、私は思いっきり焦った。

何しろ入社してこの方、社長とは一言も話したことがないのだ。

社長がこのオフィスに何度も来たことがあるとは言え、私はこのデスクからこっそりとチラ見していただけだし、社長も下の方にいる私の存在なんて気付きもしなかっただろう。

部長の彼女の存在に対するショックを引きずりつつも、私は縮めていた身体をがばっと起こし立ち上がる。

そして深々とお辞儀をしながら、社長に向かって挨拶をした。


「あのっ、え、営業一課の事務の高橋ですっ!お疲れ様です!!いつもお世話になっております!」

「高橋さん?」

「わかったなら今すぐ帰れ。仕事の邪魔だ」

「えー、別にいいじゃん」

「黒崎。」


何かを言いたそうな社長のことを部長はぎろりと鋭い目線で睨み、ぴしゃりとその名前を呼ぶ。

誰もが怯んでしまうはずの部長の目線に、社長は動じることなく、むぅと唇を尖らせて拗ねたような表情を浮かべた。

……しゃ、社長、すごい……。

いや、すごいのは部長もだ。

社長に向かって、名前呼び捨てなんですけど!!

 
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