口の悪い、彼は。
階数表示を見ると8階で、そこで私はようやく気付いた。
「……あぁっ!」
「!いきなり叫ぶな。うるせぇな」
エレベーターを出ようとしていた部長は、怪訝な表情を浮かべ、エレベーターの扉に手を当てて私の方を振り向く。
私は慌てて開くボタンを押し、部長に向かってペコッと頭を下げた。
「すみませんっ!のこのことついてきちゃいましたけど、私5階に住んでるんです。なので、ここで……ひゃっ!?」
5階のボタンを押そうと左手を操作盤に伸ばした時、その手を部長の手にぐいっと引かれ、私の身体は部長とともにエレベーターから下ろされてしまった。
後ろでエレベーターの閉まる音がするのが聞こえたけど、私を近距離で見下ろしてくる部長の表情に私は一気に引き込まれていた。
少し憂いを含んだような、でもいつもの冷たい雰囲気も感じさせる表情。
端整で甘さのある部長の表情は、笑みなんかなくても人を惹き付けて、胸をきゅうと甘く締め付けてくる。
……笑顔はそれ以上なのかもしれないけど、私がそれを知ることができる日は……来ない可能性の方が高いんだと思う。
「あの、部長……」
「来いよ」
「え?」
「知りたいことがあるんだろ?全部教えてやる」
「!!」
ふいっと目線をそらされて、部長は廊下を歩き出す。
わからないことだらけだし、知りたいことだってたくさんあるけど、本当についていってもいいの?
ついていくということは、きっとその先は部長のプライベートに踏み込むということなのに。
それを許してくれるってことなの……?
どうしたらいいのかわからなくて部長の背中を呆然と見ていると、部長はひとつの部屋の前に足を止め、私の方を向いて言い放った。
「高橋。ここは会社じゃないってこと、頭に刻んでおけよ」