私の彼は、“キス恐怖症”。《SS更新中
コンコン!ガチャリッ
社長室のドアがノックされて。返事も待たずに受付嬢の沙織ちゃんが、不機嫌な顔で入ってきた。
「瀬野さん、お客様ですよ。」
『あ、はい。』
返事をして受付に向かう背中を追いかけていく、と瀬野さんは、受付が見えた辺りで急に速度を早めて歩き出した。
「傘、忘れてたでしょ。」
『夏織…!』
急に、足早になったのは
そういうことだったらしい。
「忘れるなんて、馬鹿じゃないの。」
『ごめんごめん、ありがと。』
辛辣な言葉を吐く、夏織さんと。
嬉しそうに頰を緩める、瀬野さんと。
その2人をニヤけながら見る、俺。
「……何なのよ、あれ。」
ふいに聞こえた声に、隣を見ると。
「沙織ちゃんも、大変な人のこと
好きになっちゃったね。」
「……ムカつく。」
「沙織ちゃんには、無理だよきっと。」
「なんで……?」
「だって、瀬野さんには
ーー夏織ちゃんしか見えてない。