私の彼は、“キス恐怖症”。《SS更新中


『教室に教科書、忘れたから
先に帰ってて。』


「お前のためなら何時間だって
待っててやるから行ってこい!」


『…気持ち悪い。』


「うるせーよ!」


親友の隆也を下駄箱に残して階段を駆け上がっていく。


ーーーガララッ!


『……は?』


「あ、れ、何で瀬野くんがっ」


先生の指から落ちたのは、煙を出す“煙草”。


「これは、違うのっ」


『何が違うの?』


煙草を靴で踏み潰して、
威圧的な目で、先生を見上げる。


『妊娠してる人は、
煙草なんか吸わないよね。』


「ご、めんなさい。」


先生は、そう言うと

俺に

“キス”をした。


『っ離せよ』


「好きなのよっ、だから卒業したら
結婚してほしくてっ」


『嘘ついたの?』


「だって、妊娠したって言ったら
逃げられないで、しょ?」


いつも純粋に見えていたはずの
先生の笑顔が、醜いものにみえてきた。


『先生、ばいばい。』


たった一つの出来事で、
今までの思い出は、全て真っ黒に塗りつぶされる。

階段を降りている時に、自分の手が震えていることに気付いて失笑した。


それ以来、キスをすると
あの女を思い出して無意識に手が震えるようになったのだ。


ーーあの時受けた、

傷は今でも俺を苦しめる。

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