天才な彼を笑わす方法
あれは僕らが中学生の頃。
それまでの僕は、常に誰かに囲まれている、ムードメーカー的存在だった。
常に笑顔でいたし、常に誰かと話していた。
その日は、土砂降りの雨の日だった。
いつものように友達の家に行き、自転車で帰る途中だった。
行く前は降っていなかった雨。
前に気を付けながら、見通しの悪い道を走っていた。
「うわあああんっ」
強い雨の中、聞こえた声。
僕は自転車を停め、声のした方へ向かった。
着いたのは、小さな公園。
ぬかるんでいる道を歩き、中へ入る。
―――稲村桜は、土砂降りの雨の中、1人でベンチに座っていた。
「どうしたの…?」
僕は自転車に乗るため使わなかった折り畳み傘を、彼女へ渡した。
桜は受け取らず、俯きながら泣いていた。