それが愛ならかまわない
階段を降りて重い非常扉を開けると売店はすぐ目の前だった。溝口さんがメモを見ながら読み上げてくれるドリンクやお菓子を選ぶ。さすがに皆心得ていて指定されたのは確実に売店にも置いてある定番品ばかりだ。
「こういう所あると便利ですよね。大きい会社はいいなあ」
「決まったものしかないから外のコンビニに行く人も多いけど……時間がない時と、天気が悪いとか寒かったり暑かったりで社外に出たくない時は便利だよね」
「それに社内で少し歩くのはいい気分転換になるだろう?」
急に背中に触れられると同時に至近距離から声が聞こえてきて背筋がゾワッと怖気立った。
振り返ると梅田事業部長がいつものあの笑みを浮かべながら私と溝口さんの背中にそれぞれ手をかけている。
「梅田事業部長……」
なんでこの人がこんな所に。いやここ売店だし買物なんだろうけど。
当然ながら積極的に顔を合わせたい人物ではないので、ここで出くわしてしまうのはタイミングが悪いとしか言いようがない。けれど当然それを顔には出せない。なので結局いつものように愛想笑いを浮かべるしかなかった。溝口さんも慌てた様に頭を下げている。
「法ソリの買い出しかい?」