それが愛ならかまわない
「申し訳ありません、失礼します」
背後から新たに乱入してきた声に、思わず耳を疑った。振り返らなくても声で誰だか分かってしまう。
もう何度目かのこのタイミング。どうしてこういう時に現れるのはいつもこの人なんだろう。
「椎名さん……」
溝口さんが小さく呟くのが聞こえた。
椎名がそこの商品を取りたいという様に陳列棚を指し示したので、ちょうどその位置にあった溝口さんの肩から慌てて梅田部長が手を離す。
さすがに他部署の人間の前で両腕に女子社員は気不味いんだろうか。ならついでにこっちも離してくれていいんですけど。
「場所空けて頂いてありがとうございます、梅田事業部長」
「いっ、いやいいんだよ。すまんね」
椎名が慇懃に頭を下げると、梅田部長は取り繕うように笑って見せた。白々しさ全開だけれど、誰もそこには突っ込まない。
梅田部長が手を離した瞬間に溝口さんの手から滑り落ちたガムのボトルを、椎名が拾って彼女の腕の中に戻す。