それが愛ならかまわない
「はい」
「……ありがとうございます!」
端から聞いているだけでも溝口さんの御礼の言葉には色んな意味が含まれているのが分かるくらい力がこもっていた。見るとしっかり顔が赤い。
落ちたな、と思った。
まあね。第一印象が良くて、端末のトラブルを助けてもらって、おまけにセクハラから救ってもらって。これだけ重なればいくら雰囲気が地味でも立派なヒーローだ。真面目そうな溝口さんがころっと行くのも仕方ない。
罪な男。
尚も部長に肩を抱かれたままの私は完全にスルーしているのがまた腹立たしい。
そう考えていたら部長の手が肩からスルスルと移動して私の腰をポンと叩いた。
「ほら選んでしまいなさい」
いちいち触らないと喋れないのか。
聞こえない様にこっそり舌打ちしたつもりだったのに、椎名がチラリとこっちを見た気がした。
イラッとしたので、自分の分はお茶だけ買うつもりだったのを変更してミントのタブレットをさりげなく追加する。どうせ部長は誰の分だか分かってないし、これくらいは許されるだろう。メントールの風味でこの不快感を吹き飛ばしたい。
「梅田事業部長、ありがとうございました。フロアの皆にも伝えておきます」