それが愛ならかまわない
エレベーターが早く来ればいいのに。
二機並んだそれは両方とも階上に上がってしまっていてまだドアが開く気配を見せない。思わずボタンを連打したくなったけれど、そうした所で降りてくるまでの時間が短縮される訳じゃない。ギリギリの所で理性がストップをかけた。
「別に何もしてないけど」
嘘つけ。意図的じゃないならもう少し穏やかな登場の仕方をしたはず。
前から思ってたけど、クールに見えて椎名は結構お節介だ。
まあ目の前で女子社員がセクハラまがいな事をされてるのに素知らぬで完全スルーされても嫌だけど。面と向かって文句の言えないうちのフロアのメンバーだって何とか部長の気を逸らそうという努力くらいはしてくれる。
「でも……助かりました。今度御礼させて下さい」
部長がまだ近くにいる以上滅多な事を口にされたら困るな、と思っていたけれどさすがに心得ているのか溝口さんもセクハラという単語は出さなかった。
「だから別に何もしてないって」
「椎名さんがそうは思ってなくても私は本当に助かったんです。この間のトラブルの件も」
何が何もしてないだ。格好つけちゃって。
そんな事を思いながらドアの上のランプを眺める。エレベーターはまだ来ない。