それが愛ならかまわない

　振り返った目に映ったのは、嬉しそうに上気した溝口さんの横顔と真顔で目を伏せ軽く頷く椎名。その伏せた目線がふと上がって、うっかり凝視してしまった私の視線と交差した。分かり易い溝口さんとは対照的に、やっぱりその表情からは何を考えているのか全く読めない。


「……じゃ」


「……お疲れ」


　必要最低限の、形だけの挨拶。
　「お疲れ様です」という明るい溝口さんの声と共に、椎名だけを残したエレベーターの扉が閉じていく。私の顔に固定されたままの視線が閉じた扉によって遮られると、少しだけほっとした。


「さ、皆待ってるし早く戻ろう」


　今の『約束』の件に触れられたくなかったので、何か言われる前に私はそう言って溝口さんを促した。


　そう言えば、矢吹さんのお店で据え膳食わぬはどうこうと椎名が言っていた事を思い出す。その科白がどこまで本気だったかは分からないけれど、今の溝口さんなんて完璧なまでの据え膳だ。と言うことは。


　……違う、それは今私が考える事じゃない。