それが愛ならかまわない

「なんだやっぱり別れたのか」


 さらりと言われた言葉に思わずギョッとして振り返る。


「え?」


「名前忘れたけど前に一度セミナーに来たどっかの青年実業家と付き合ってたんだろ?でも割と最近別れたって聞いたけど」


「否定はしませんけど、どこでそんな話聞いたんですか……」


「金融の長嶺。凄いよなあ、あいつの情報網」


 壁に耳あり障子に目あり、そして社内に長嶺あり。
 長嶺さんに浅利さんの事を話した覚えはないし、もちろんデート中に遭遇した覚えもないのに一体どこから知ったんだろう。浅利さんとの付き合い自体もそこまで長いものではなかったにも関わらず、既に破局した事まで知られているなんて。
 この間perchで会った時に椎名との事で探りを入れられたけれど、それはこの情報があったせいなんだろうか。石渡君の行動が大胆になってきているのももしかしたら。


「立岡と飲みに行くけど篠塚もどうよ。セクハラに対する愚痴だって聞いてやるぞ?」


 井出島部長の言葉がさっきの自分の故意的な発言ではなく、暗に梅田事業部長の日頃のボディタッチの件を指しているのは明らかだ。

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