それが愛ならかまわない
確か小野さんは私と十五歳くらい離れているはずだった。
溌剌としているせいか四十歳を越えているのに実年齢よりずっと若く見えるし、仕事の手際も良いので店長からの信頼も厚い。私がこの店で長く勤めているのも小野さんの存在のお陰で居心地が良いからだ。
「じゃあやっぱり就職関連じゃなくて恋の悩み?なんかため息ついてたし。前に休憩中に外で彼氏らしき人と話してたよね」
「……あれは、そんなんじゃないんです」
小野さんが言っているのが浅利さんの事なのか椎名の事なのかは分からないけれど、もちろんどちらも違うので否定しておく。
原因を特定出来ない苛立ちを自分でも持て余している。でもこれは恋とかそんな甘い気持ちじゃない。
その時ドアが開く音がして店内に客が入って来たので、彼女との会話はそこで途切れた。
ケーキを取り分け、焼き菓子の詰め合わせにリボンをかけながらも頭の中ではさっき見た光景がグルグルと回っている。
溝口さんは眼鏡を外した椎名の睫毛の長さに気付くだろうか。昼間椎名が溝口さんだけを梅田事業部長のセクハラからさりげなく庇った様に見えたのは深い意味があったんだろうか。
何だか私は椎名と溝口さんの事ばかりに気にしている。