それが愛ならかまわない
分かるよ。
どんなに一人で頑張ろうと気を張ってたって、過去の失敗を教訓に男なんかに左右されないって思ってたって、むしろ笑顔で他人を動かせるようになろうとしてたって。弱ってる時は優しくされたいし、誰かに縋り付きたくなる時だってある。ただそれを素直に認めてしまえる溝口さんのその真っ直ぐさは可愛いなと思うし、羨ましい。
けれどきっと私は自分が本当に落ち込んでる時こそ虚勢を張ってしまう。逆に元気な時ならいくらでもか弱いフリが出来るけれど。
「椎名さんの事、何か情報あれば教えて下さいね」
「……私はあんまり役に立たないと思うよ。じゃあ、コーヒーありがたく飲ませてもらうね」
間をもたせる為に何となくもう一度手を洗ってハンカチで拭きながら、溝口さんを残してそそくさとトイレを出る。
『上手く行くといいね』とか『応援してる』という科白は口に出来ないので、そう言わざるをえない流れにはならず無難に話を切り上げる事が出来て正直ホッとした。
誤魔化す事は出来るのに明らかな嘘はつきたくないというのは私の自己満足でしかないけれど、彼女には言えない事がどうしたって多過ぎる。
席に戻って口にしたコーヒーは、会社備え付けのマシンで入れたアメリカンであるにも関わらずいつもより苦い気がした。