それが愛ならかまわない

* * *




 まただ。
 昼休みに入って取り出した個人用のスマホを見て、私はこっそりと雑音に紛れてため息をつく。
 登録のない携帯電話番号からの着信。数日前から二回履歴に残っていて、これで三度目だった。タイミング的に、北見先輩からの可能性が高いんじゃないかという気がする。先日の同級生からのメールには結局返信せず黙殺しているけれど、こちらの番号が変わった訳じゃないんだから北見先輩が学生時代と番号を変えてさえいれば私の所へかけてくる事は出来るはずだ。
 とてもじゃないけれど折り返す気にはなれない。電話越しに話をしてもこの間と同じ様に不快な事を言われるだけなのは目に見えていたし、無駄なストレスは貯めたくなかった。


 一気に重くなった気分を胃を抱えて、それでも食堂に向かおうと立ち上がる。今日の午後は先日電話があったNTエステートとの約束がある。首尾よく話を持って行く為にも、何か食べて英気を養っておかなくてはならない。


「あれ、篠塚君じゃないか」


 エレベーターを降りて食堂に向かっていると、あまり聞きたくはない声が横から飛んで来た。
 聞こえなかったふりをしたかったけれど、さすがに社内でそういう訳にはいかない。

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