それが愛ならかまわない

「すみません、社食で同期と約束してるんで……」


 もちろん約束なんかしていない。けれど角を立てずに部長の誘いを回避する為にはもうそう言うしかなかった。
 断った上で部長が食堂に来るならどうにかして同期を探しだして、強引に混ざってしまおう。こっそりそう決意する。


「篠塚さん?」


 タイミングよく背後から声をかけられる。部長の腕から逃れる様に振り返ると、石渡君と安田君だった。
 咄嗟に彼らの後ろに椎名の姿がない事を確認して内心安堵する。何となく今顔を合わせたくはなかった。


「食堂行くなら一緒に行こうよ」


 今日も変わらず石渡君の笑顔は爽やかだ。スーツの着こなしも隙がなくて格好良い。しつこく言うけど私のタイプじゃない。でも今は彼のその笑顔が神々しく後光が差して見えた。
 正直な所、今はあまり食欲もないし誰かと話す気分じゃないので本当は一人で食事をしたかった。ただ梅田部長へのカモフラージュにはこれ以上の好機はない。


「うん、ありがとう。……部長、すみません。失礼します」

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