それが愛ならかまわない

「そうか、じゃあまたの機会に」


 笑顔で会釈しつつ、『またの機会』が永遠に来ない事をこっそりと願う。実現したら仕事中以上に神経を擦り減らし余計なストレスを溜め込む昼休みになるのは確実だ。


「ありがとう、助かった」


「良かった。余計なお世話かなと思ってたんだけど」


 むしろこんなに石渡君に会えたのを嬉しく思った事はない。そしてそのお陰で一つ気づいてしまった事がある。
 売店での一件。椎名が溝口さんを優先的に部長の手から救った様に見えたのを、私の中では結構重く引きずってしまっている。本音を言えば、私の方に割り込んで助けて欲しかった。今更言ってもどうなるものでもないし、我ながらしつこいとは思うけれど。


「あれが噂のセクハラ部長かあ」


 充分に距離を取った後で安田くんが大きな耳をひくひくと動かしながら言う。


「噂?」

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