それが愛ならかまわない
うちの部署内では皆あまり口には出せずとも部長のセクハラは周知の事実だけれど、他部署にまで広まっているとは思わなかった。それならそれでいい加減問題になりそうなものなのに、そういう気配はない。
「若い女子社員にばっかりスキンシップ過剰だって結構言われてるよ。……ただ人を選んでるみたいで法ソリ内でも怒って騒ぎたてたりするようなタイプには絶対しないって。だからどうにも注意しにくいらしい」
気遣う様にちらりと安田君がこちらを見た。
それが真実なら私は梅田事業部長にとって「触っても大丈夫」なカテゴリに入れられてしまっているという事になる。
例えばもし梅田事業部長と同じ事を井出島部長にされても正直不快感はないし、気にもせず自然に笑って流せる。特定の人物を相手にした場合のみ不快な行為になると糾弾してしまうと、それはただの個人的な好き嫌いだという事になってしまいそうで、だからこそ私は梅田部長に対してはっきりと拒絶が出来ない。それに相手は直属の上司かつ部署内のトップなのでやっぱりどこか遠慮してしまう。
もっとあからさまに嫌な顔をした方がいいんだろうか。そう言えば福島さんにもそんな事を言われたっけ。
無駄にヘラヘラしているつもりはないけれど、今の私は物事を円滑に進める為に反射的に愛想笑いが出る様になってしまっている。文字通り張り付いた笑顔だ。それが仕事の成果と個人の評価に結びつくならそれでいいと割り切っていたつもりだったのに。
「おい、その理屈だと篠塚さんが悪いって事になるだろ」