それが愛ならかまわない
人間誰しも他人に対して取り繕っている部分はある、と思う。多かれ少なかれ、外向きの顔というやつを誰もが持っているはずだ。
だって社会には社会の秩序があって、例え自分を多少偽る事になったとしてもそこに収まるようにしないと生きて行けないし。毎日を潤滑に動かす為には建前とか愛想笑いとかそういった仮面が必要。
篠塚莉子は愛想が良く、仕事も出来る美人である。
……というのが私がこれまで死守し続けてきたパブリックイメージだ。
いや自分で言うなって感じだけど。
もちろんそれに見合う努力は惜しんでいるつもりはない。どうせなら自分の価値を高めたい、憧れ賞賛される自分でいたい。それは私に限らず多くの人が持っている欲求だ。
けれど本当の私は自尊心が高くて短気で口が悪い。幼い頃から可愛いと褒めそやされ、それに対して作り笑顔で対応している内に溜まったストレスがすっかり性格を捻じ曲げてしまった。
普段はそれを自制してイメージ通りに振る舞うように心掛けているし、私が仮面を外す事は滅多にない。
それでもたまに感情を抑える事が出来ず素の自分が出てしまう事はある。この時がまさしくそれだった。仕事が忙しく疲れていたのもあってリミッターが外れやすい状態だったのだからタイミングが悪過ぎたというしかない。
「は?」
思わず発した言葉はたったの一文字とは言え、私の苛立ちと不快感が十分過ぎる程含まれていたと思う。