それが愛ならかまわない

 真後ろに並んでいたのは長嶺さんだった。彼も今気づいたと言うように目を丸くしている。
 少し皺の寄ったワイシャツの袖を捲り上げ、ノーネクタイの長嶺さんの顎には無精髭が生えている。身だしなみはいつもきちんとしている長嶺さんだけに少し珍しい姿だった。疲れているんだろうか。


「はい。こんな至近距離に知り合いいても気づかないものなんですねー」


 私がそう言って笑うと、長嶺さんは眉間に皺を寄せてこちらを見た。そのまままじまじと顔を凝視される。


「なんか、篠塚ちゃんげっそりした顔してんな」


「え?」


「いつものキラキラ感というかギラギラ感がない。そのせいかな、前にいても気付かなかったの」


 長嶺さんは自分の言葉に頷いて納得している。疲れている様に見えたのは長嶺さんの方だったのに、逆に指摘されてしまった。
 それにしてもキラキラ感はともかくギラギラ感って何だ。
 自分ではそんなに貪欲さを前面に出してるつもりはないけれど、長嶺さんの目にも小野さんと同じ様に私は野心家として映ってるんだろうか。

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