それが愛ならかまわない

 成る程、いつもと違って少しくたびれた風情なのはそのせいらしい。
 長嶺さんが忙しいという事は、同じ部署の椎名も同じ様に徹夜で仕事をしているんだろうか。


 お互いに受け取ったうどんの代金を精算した後、同じ様に同期の友人と食べるという長嶺さんと別れて確保した席に戻る。
 食事をしながら何度も安田君に石渡君との事について微妙なラインの探りを入れられたけれど、いつもの様に適当にはぐらかした。


「溝口さんはやっぱ椎名狙いなのかねー」


 ミックスフライを食べ終えた所で安田君がため息をつく。私がはぐらかし続けるので自分の愚痴に切り替えたらしい。唐突に出て来た椎名の名前に、もちろん顔には出さなかったけれど少しだけドキリとした。
 溝口さんの態度は本人が隠しているつもりでもバレバレなので、見る人が見ればすぐに分かってしまう。安田君も彼女の視線の行方は察しているらしい。でもさすがにその通りだから諦めたら?とは私には言えない。


「あー……なんか部署違うし接点ないはずなのに会社の外で二人で話してるの見たって誰かも言ってたな」


 何気ない石渡君の言葉に胃の奥がキリッと痛んだ。それはこの間の夜の事だろうか。
 この話題はこれ以上聞きたくない。そろそろ素知らぬ顔を続けられなくなりそうだった。

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