それが愛ならかまわない
さっきの反省を生かして、深呼吸をしてからそろそろと起き上がる。今回は気をつけたお陰で目眩や吐き気に襲われることはなかった。
電気を消してから部屋を出て、扉に施錠しながら福島さんが言った。
「鍵は後で私が総務に返しておくから」
「すみません、ありがとうございます」
医務室は一階にある。エレベーターに乗るために歩き出した所で、聞き覚えのある声がした。
「今日はありがとうございました」
どうしてこうも最近の私は尽くタイミングが悪いんだろう。
数メートル先に来客を見送りにロビーまで出て来たらしい井出島部長と大友さんの姿。同じ様に挨拶を交わしているのは、よりによって今日私が対応するはずだった会社の担当者だった。
隠れられるなら隠れたかった。けれどロビーでは身を隠す場所なんてないし、おまけに距離が近過ぎた。
「……あ」
先に気づいたのは大友さんだった。本人不在の間に担当を代わる事になった後ろめたさなのか、私と目が合うと少し気不味そうな顔をされる。どうせならしれっと普通にしていてくれた方がこっちも気が楽なのに。